【お知らせ】S-Fマガジン9月号にて「PSYCHO-PASS」ノヴェライズ第2回掲載&今回のノヴェライズについて【雑誌連載】

【新作連載のお知らせ】

 

7月25日発売のSFマガジン9月号にPSYCHO-PASSノヴェライズ第二回『無窮花』後篇が掲載されました。先月の前篇と合わせ、グソン篇はこれにて完結となります。

内容としては、前篇を引き続きつつも、日本篇ということでサイバーパンク/ハードボイルド/バイオレンスのごった煮といった風情で物語が展開し、グソンが槙島と邂逅するまでを描きます。
ちなみに来月の10月号には縢篇が掲載予定。9月に単行本が発売予定です。こちらは続報をお待ちください。
 
 
 
S-Fマガジン 2014年 09月号 [雑誌]

S-Fマガジン 2014年 09月号 [雑誌]

 

 

 
というわけで、まだまだPSYCHO-PASSノヴェライズは続くわけですが、グソン篇完結がひとつの区切りとなったので、色々と書いておきたいこともあるという次第です。
 
そもそも僕が、PSYCHO-PASSノヴェライズの依頼を受けたのが昨年の8月――ちょうどデビュー作の『パンツァークラウン フェイセズ』3巻をようやく書き上げ、刊行に至ってすぐ、早川書房塩澤氏から「『PSYCHO-PASSのノヴェライズって興味ありますか?」と訊かれたのが始まりでした。
 
実のところ、僕は放映当初から興味は持っていたのですが、諸々あって、この時点ではまだ未視聴でした。
しかし、虚淵玄深見真共同脚本の作品なのです!
僕は、高校一年の頃に雑誌表紙で『斬魔大聖デモンベイン』のアル・アジフとデモンベインと出会って以来のNitro+ファンであり、虚淵玄作品もPhantom/ヴェドゴニア鬼哭街沙耶の唄/続・殺戮のジャンゴ…とプレイして、そのハードな世界観に否応なく影響を受けました(※特に僕は『吸血殲鬼ヴェドゴニア』『鬼哭街』の影響がとても強い)。一方で深見真作品も、高校時代に『ヤングガン・カルナバルシリーズに触れて以来、『ゴルゴダ』『疾走する思春期のパラべラム』『 ロマンス、バイオレンス&ストロベリー・リパブリック』『ブラッドバス』……と上げれば数えきれないほどで、両氏の作品群は、今の僕にとって血肉の多くを占めているのです。
 
…話が脇道に逸れてしまいましたが、そんなわけで『PSYCHO-PASS』が両氏の作品であることは知っており、即答したわけです。無論、「やらせてください!」と。
そして、すぐさま本編を視聴し、最初の打ち合わせに望んだとき、まず提示したプロットが、確か…チェ・グソン/泉宮寺豊久/唐之杜志恩だったように記憶しています。振り返ってみると、ノヴェライズ主人公の三人中二人が敵側の部下であり、しかも両者とも途中で死亡している人物であったわけです。ただし、これには理由がありました。僕が「PSYCHO-PASS」を小説化するにあたり「PSYCHO-PASSの世界」を描くべきと判断していたからです。たとえばチェ・グソンは国際情勢/泉宮寺豊久はシビュラ統治社会確立の経緯…といった具合に。
※とはいえ、彼らに魅かれていたという部分もなきしにもあらずなのですが…。
その後に、改めてグソン/縢/志恩・弥生/征陸と他二篇の計6編のプロットを提出し、そこから検討して連載内容をというつもりが、いつのまにか6編すべてを書くことになり、「え…あの? おお! やったる!!!」と相なって、現在のSFマガジン連載と12月の書下ろし単行本という怒涛のPSYCHO-PASSシフトへと繋がるわけです。
 
※なお、昨年の六本木のオールナイト上映会で端っこにいたのですが、あの不眠不屈の戦いのすえに、征陸の物語は発想しました。
※ちなみに、余談ですが狡噛慎也常守朱槙島聖護の三者は、本編でこそ語られるべき人物たちと思い、最初からノヴェライズの主人公としては除外していました。
※また、上記のテーマからいくと、あとひとり「書くべき男」がいるわけですが、これについては、まあ…どうなんでしょう。奴、書きたいいんだけどなあ…。
 
というわけで、チェ・グソンという男は、全6編のうち、最も初期からノヴェライズの主人公として想定されていたのです。これは完全にこちら側から提案したもので、まさか自分もグソンからノヴェライズを始めることができるとは、当時、想定していませんでしたが、結果的に、彼からノヴェライズは始めるべきだったのだ、と現段階で感じています。
なぜなら、彼は〈外〉から来た人間であるから。物語の外に拡がる〈世界〉を知っているから。
先ほども書いたとおり、僕の役割は端的に言えば「PSYCHO-PASSの世界」を描くことであると定義しています。
アニメ本編では語り切れない、あるいは拡張可能性のある物語の断片たち、それを包み込む世界観――そういったものを考察し、解釈し、そして小説というフォーマットに出力する。
では、「PSYCHO-PASS」世界の中心が何かと言えば、それはシビュラ統治社会でしょう。二二世紀。今から一〇〇年後の未来。多くの歴史改変が起こり、現実とは違う、しかしある部分では地続きの未来社会。そこに段々と近づくために、PSYCHO-PASS世界の片隅に降り立ち、海を超え、耀く都市を間際に迫っていく…最初に書くべき物語に要請された主人公は、必然的にチェ・グソン以外に有り得なかったのです。この後の縢然り、志恩・弥生然り、征陸然り…誰もが書くべき物語に要請された登場人物たちなのです。また残り二編については、少し特殊な立ち位置のため、現時点では何とも言えないのですが、二つともある重要な人物と技術についての物語です。
 
SF小説とは、現実の世界をいかに考察し、独自の解釈を施し、新たな物語を生み出し、小説という形式に出力するものである、と考えています。その意味で、この「PSYCHO-PASSノヴェライズの作品群は、「PSYCHO-PASSの世界」をSFする小説ということになるのではないか、と。
まだ長い道程を歩み始めたばかりで、途中に様々なものと出逢い、認識や解釈が変化していくこともあるかもしれませんが、ひとつ見通せた道筋が、おそらくコレなのだと思います。
 
ええと、まあ、随分と長くなってしまいましたが、僕にとって今回のノヴェライズ企画は、著作が実質1作しかない新人作家にとって望外ともいえるチャンスであるわけです。本作を通し、読者のみなさまが楽しんでいただける小説を書き続けていくこと。そして、僕自身も成長していくことを、改めてここに決意するものとして、この文章を記します。
 
2014年7月27日   吉上亮 拝