【お知らせ】S-Fマガジン9月号にて「PSYCHO-PASS」ノヴェライズ第2回掲載&今回のノヴェライズについて【雑誌連載】
【新作連載のお知らせ】
7月25日発売のSFマガジン9月号にPSYCHO-PASSノヴェライズ第二回『無窮花』後篇が掲載されました。先月の前篇と合わせ、グソン篇はこれにて完結となります。
ちなみに来月の10月号には縢篇が掲載予定。 9月に単行本が発売予定です。こちらは続報をお待ちください。
というわけで、まだまだPSYCHO- PASSノヴェライズは続くわけですが、 グソン篇完結がひとつの区切りとなったので、 色々と書いておきたいこともあるという次第です。
そもそも僕が、PSYCHO- PASSノヴェライズの依頼を受けたのが昨年の8月―― ちょうどデビュー作の『パンツァークラウン フェイセズ』3巻をようやく書き上げ、刊行に至ってすぐ、 早川書房塩澤氏から「『PSYCHO-PASS』 のノヴェライズって興味ありますか?」 と訊かれたのが始まりでした。
実のところ、僕は放映当初から興味は持っていたのですが、 諸々あって、この時点ではまだ未視聴でした。
僕は、 高校一年の頃に雑誌表紙で『斬魔大聖デモンベイン』のアル・ アジフとデモンベインと出会って以来のNitro+ ファンであり、虚淵玄作品もPhantom/ヴェドゴニア/ 鬼哭街/沙耶の唄/続・殺戮のジャンゴ…とプレイして、 そのハードな世界観に否応なく影響を受けました(※特に僕は『 吸血殲鬼ヴェドゴニア』『鬼哭街』の影響がとても強い)。 一方で深見真作品も、高校時代に『ヤングガン・カルナバル』 シリーズに触れて以来、『ゴルゴダ』『 疾走する思春期のパラべラム』『 ロマンス、バイオレンス&ストロベリー・リパブリック』『 ブラッドバス』……と上げれば数えきれないほどで、 両氏の作品群は、今の僕にとって血肉の多くを占めているのです。
そして、すぐさま本編を視聴し、最初の打ち合わせに望んだとき、 まず提示したプロットが、確か…チェ・グソン/泉宮寺豊久/ 唐之杜志恩だったように記憶しています。振り返ってみると、 ノヴェライズ主人公の三人中二人が敵側の部下であり、 しかも両者とも途中で死亡している人物であったわけです。 ただし、これには理由がありました。僕が「PSYCHO- PASS」を小説化するにあたり「PSYCHO- PASSの世界」を描くべきと判断していたからです。 たとえばチェ・グソンは国際情勢/ 泉宮寺豊久はシビュラ統治社会確立の経緯…といった具合に。
※とはいえ、彼らに魅かれていたという部分もなきしにもあらずなのですが…。
その後に、改めてグソン/縢/志恩・弥生/ 征陸と他二篇の計6編のプロットを提出し、 そこから検討して連載内容をというつもりが、 いつのまにか6編すべてを書くことになり、「え…あの? おお! やったる!!!」と相なって、 現在のSFマガジン連載と12月の書下ろし単行本という怒涛のP SYCHO-PASSシフトへと繋がるわけです。
※なお、 昨年の六本木のオールナイト上映会で端っこにいたのですが、 あの不眠不屈の戦いのすえに、征陸の物語は発想しました。
※また、上記のテーマからいくと、あとひとり「書くべき男」 がいるわけですが、これについては、まあ…どうなんでしょう。 奴、書きたいいんだけどなあ…。
というわけで、チェ・グソンという男は、全6編のうち、 最も初期からノヴェライズの主人公として想定されていたのです。 これは完全にこちら側から提案したもので、 まさか自分もグソンからノヴェライズを始めることができるとは、 当時、想定していませんでしたが、結果的に、 彼からノヴェライズは始めるべきだったのだ、 と現段階で感じています。
なぜなら、彼は〈外〉から来た人間であるから。物語の外に拡がる〈世界〉を知っているから。
先ほども書いたとおり、僕の役割は端的に言えば「PSYCHO- PASSの世界」を描くことであると定義しています。
アニメ本編では語り切れない、 あるいは拡張可能性のある物語の断片たち、それを包み込む世界観―― そういったものを考察し、解釈し、 そして小説というフォーマットに出力する。
では、「PSYCHO-PASS」世界の中心が何かと言えば、 それはシビュラ統治社会でしょう。二二世紀。今から一〇〇 年後の未来。多くの歴史改変が起こり、現実とは違う、 しかしある部分では地続きの未来社会。そこに段々と近づくために、 PSYCHO-PASS世界の片隅に降り立ち、海を超え、 耀く都市を間際に迫っていく…最初に書くべき物語に要請された主人公は、 必然的にチェ・グソン以外に有り得なかったのです。 この後の縢然り、志恩・弥生然り、征陸然り… 誰もが書くべき物語に要請された登場人物たちなのです。 また残り二編については、少し特殊な立ち位置のため、 現時点では何とも言えないのですが、 二つともある重要な人物と技術についての物語です。
SF小説とは、現実の世界をいかに考察し、独自の解釈を施し、 新たな物語を生み出し、小説という形式に出力するものである、 と考えています。その意味で、この「PSYCHO-PASS」 ノヴェライズの作品群は、「PSYCHO-PASSの世界」 をSFする小説ということになるのではないか、と。
まだ長い道程を歩み始めたばかりで、途中に様々なものと出逢い、 認識や解釈が変化していくこともあるかもしれませんが、 ひとつ見通せた道筋が、おそらくコレなのだと思います。
ええと、まあ、随分と長くなってしまいましたが、 僕にとって今回のノヴェライズ企画は、 著作が実質1作しかない新人作家にとって望外ともいえるチャンス であるわけです。本作を通し、 読者のみなさまが楽しんでいただける小説を書き続けていくこと。 そして、僕自身も成長していくことを、 改めてここに決意するものとして、この文章を記します。
2014年7月27日 吉上亮 拝