【新作長編「泥の銃弾」、刊行】

★★★新刊が出ました。★★★
長篇小説「泥の銃弾」、新潮文庫より上下巻同時刊行です。

帯コメントは翻訳家/書評家・大森望さまより、

「まさに超弩級。戦火のシリアから五輪のトウキョウまで、現代をまっすぐに撃ち抜く、日本エンターテインメントの極大射程。」

の評。

本作の物語を、この上なく的確に表して頂きました。記して御礼申し上げます。

泥の銃弾(上) (新潮文庫 よ 40-51)

泥の銃弾(上) (新潮文庫 よ 40-51)

 

 

泥の銃弾(下) (新潮文庫 よ 40-52)

泥の銃弾(下) (新潮文庫 よ 40-52)

 
 「武器を持たない」日本人記者と「完全武装の」難民傭兵のバディが、2020年の東京を駆ける――。
舞台は、難民を受け入れる選択をした、すぐ近くの未来の日本。
2020年の東京オリンピックを控えた、東京・千駄ヶ谷の新国立競技場で、都知事が難民テロリストによって狙撃された――。
本作の主人公は、全国紙の社会部若手エース記者だった男、天宮理宇。
天宮は、〈都知事狙撃事件〉が起きたその瞬間を、まさに目の前で目撃し、事件の当事者となった。その真実を明らかにしようとする天宮は、その取材成果により全社を挙げた〈都知事狙撃事件〉の報道プロジェクトを立ち上げるまでに至るも、警察の事件捜査は、ある理由から強引に終結してしまう。
それでも真相を暴こうとする天宮は、報道方針を巡って所属する新聞社と対立、独自に事件の真相を追うために退職を余儀なくされる。かくして、フリージャーナリストとなり、再び〈都知事狙撃事件〉を追い始めた天宮は、真実を追い求めるその孤独な取材の道程をたったひとりで歩み始める。
そんな天宮のもとに、「おれは〈都知事狙撃事件〉の真犯人に関する重要な手がかりを知っている――」という情報提供がもたらされる。
男の名は、アル・ブラク
東京に隠れ潜む難民である彼は、携帯電話越しの会話以外、その正体、その居場所さえも分からない謎の情報提供者だった。しかし彼もまた、天宮と同じく〈都知事狙撃事件〉の真実を明らかにするため、事件を追跡していた。
「俺には……、〈都知事狙撃事件〉しか残されていないんだ」
「……だとすれば、おれとあんたの利害は完璧に一致している。この上なく完璧にな」
天宮とアル・ブラクは、そして「事件の真相を暴く」というたったひとつの目的ゆえに手を組むことを選択する。
事件の真相を追う、彼らの眼差しのその先には、日本政府が押し進めた〈難民政策〉が招いた社会の歪みに翻弄される数々の難民たち、そして警察や公安、報道機関…数多の勢力が秘める、それぞれの思惑が、〈都知事狙撃事件〉という前代未聞のテロ、その真実を巡って幾重にもに交錯していた――。


……という筋書きどおり、今回の新作は、「難民を受け入れた日本」というSF的な設定以外は、現実の世界、現在の日本と国際情勢が主題となるサスペンス長篇、政治・軍事・報道・国際情勢に跨る冒険小説となりました。

とはいえ、日本政府が今年から労働力としての移民受け入れを決定するなど、想像していたよりもはるかに早く、未来が現実になったこともあり、色々な意味で「現代小説」になりました。

 

これまでSF文芸で学んできた「SFの視線」と、「サイコパス」や「メタルギアサヴァイヴ」、「ジョジョ」「封神演義」の仕事で学んだ「エンタメの精神」。その双方を組み込んだ、「SFの手法で書いた現代エンタメ小説」になったのではないかと思っています。

 

上下巻合算のページ数は、約900ページ。原稿用紙換算だと単純計算で約1000枚くらいになるので、結構な大長篇です。
デビュー作の「パンツァークラウン」のときは全3巻を3ヶ月連続連続刊行だったこともあり、オリジナルの長篇になると、何かと複数巻に跨ることが多いですね。

 

実際、企画の始まりから今日の刊行までに三年くらい掛かってしまいました。「サイコパスSS」の脚本や、「メタルギアサヴァイヴ」などの仕事の傍ら、延々と本作の原稿を書き続けていました。なので、2017年と2018年は、オリジナルの小説が出なかったり、表に出る仕事の量が少なかったのでした。

 

初稿が完成したのが去年の3月、そこからまた1年間ほど改稿作業をしていたので、去年に出た「ジョジョ」や「封神演義」の小説は、書いた順番で言うと、実は、この「泥の銃弾」よりも後になります。

 

今回の「泥の銃弾」や今年1月に公開になった「PSYCHO-PASS|SS case.1 罪と罰」の脚本など、実際に仕事をした時期と世に送り出されるタイミングで結構なタイムラグがあったりするので、最近は「これはいつ発表できるのかな…」と思いながら、黙々と仕事をすることが増えました。

 

とはいえ、期せずして、連続するタイミングで、「サイコパスSS」や今回の「泥の銃弾」が世の中に出ていくこともあり、ようやく報われたなあ…という気持ちになります。

 

今回の新作長篇「泥の銃弾」は、僕にとって、「小説を書くこと」、「書いた作品が出版されること」の困難さと、それに勝るとてつもなく大きな喜びを、改めて実感させてくれる大切な一作になりました。

 

思えば、6年前――2013年に24歳でデビューして以来、毎回、どうすれば面白い物語、読んで驚きのある小説を書けないかと悪戦苦闘しながら、どうにか作家業を続けてきました。

 

本作、「泥の銃弾」は、その意味でも、デビュー以来、有難いことに作家・吉上亮を追いかけてきて下さった読者の皆様に、「ようやく、これだけの小説が書けました」と言えるだけのものが書けたのではないかと思います。

同時に、「サイコパスSS」を通じて、作家・吉上亮を知った新しい読者のひとたちにも、「これが吉上亮の小説です」とお見せできるものになったと思います。

 

面白い小説が書けました。
そして、これからもっと面白い小説を書いていこうと思います。

 

新刊「泥の銃弾」、新潮文庫より、上下巻同時刊行にて、全国書店、ネット書店にて発売中です。
電子版も、少し遅くなってしまいますが、配信されるそうです。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

2019年 3月 仕事場にて
吉上亮 拝